雨傘とぺトリコールについて
〇雨傘とペトリコールの再始動は、ボーカルのはる1984とギターの三森が『海と亡霊』を合わせた2023年7月に遡ります。当時はまだメンバーが揃わない中で動画を上げたのがスタートでした。その後は順当に音源作成を進め、2024年1月に1stEP「泡になる前に。カーブのその先へ。」2024年10月に2ndEP「窓際の少女/薄氷の恋(青盤)」をリリース。対バンでのライブも増え、少しずつ「名前が広まってきた」という手応えを感じ始めました。
〇新しいメンバーとの出会い
はる1984が「ツインリードギターをやりたい」と言い出したことでギターも募集。2025年にかけて新しいメンバーがスタジオに入り始め、ようやく現在の「雨傘とペトリコール」の形が固まり始めました。
現在のギター(亀山)が加入したのは2025年5月後半。当初は明確にアルバム制作を開始するという話はありませんでしたが、「そろそろ新曲を色々外に出そうか」という空気感の中、寝かせていた『世界の終わりは金曜日の夜に』などの曲に着手し始め、気づけば本格的なレコーディングへと進んでいきました。
なかなか固まらず外に出せなかった曲も「4人の音」が揃い、新しい風が吹いたタイミングで、このアルバム制作が動き出しました。
アルバム楽曲について
01. 窓際の少年
Vo.はる1984が大学生の頃に書いた、雨傘とぺトリコールの中で最も古い部類に入る曲です。歌詞はかなり感傷的で、どこか痛々しさもあるのですが、はる1984がBANANA FISHの最終回直前に書き上げ、「最終回は絶対に見ない」と誓ったほどの熱量の中で生まれました。先に当時のギターからデモが届き、その世界観に呼応するイメージを探していくうちに、BANANA FISHや、萩尾望都さん(漫画家)の『メッシュ』へと辿り着いた、という感覚があります。
以前の録音ではシンセサイザーを重ねて無理に厚みを補っていた部分を、今回Gt.亀山の加入によって、「2本のギターのハーモニー」として自然な形で表現できるようになりました。特にサビ裏のフレーズには、今の雨傘とペトリコールが目指していた“ツインギターで音像が満ちていく感覚”がよく表れていると思います。あえてデジタルディレイを用いて線の細い鋭さを強調したり、前任のギターのオルタナティブ的な質感を現編成のアンサンブルに馴染ませたりと、細部に至るまで丁寧に調整を重ねました。
雨傘とペトリコールにとって、名刺代わりとも言える一曲です。
02. 青い鳥
当時のライブハウスのスタッフの方がSNSにアップしていた映像の断片しか残っていなかった、いわば“幻の曲”を、今回アルバムのために編曲し直しました。もともとはVo.はる1984が学生時代の夏合宿で作曲し、その当時のメンバーで「この曲いいよね」と話しながら、そのままライブに持ち込んだようなセッション的な楽曲でした。当時はアドリブのギターソロが極端に長い、衝動性の強いロックナンバーでした。しかしGt.亀山が今の4人なら、その“余白”をもっと有機的に活かせると感じ、編曲をはじめました。
Gt.亀山:結果、1番と2番でボーカルの背後にあるギターフレーズを入れ替えたり、片方のギターだけ異なる拍子を演奏する「クロスリズム」を取り入れたりと、かなり構造的に踏み込んだアレンジになりました。
一見すると、変拍子の中で「青い鳥を必死に探し続けている」ような不安定さを感じさせながら、実はそれがすぐ隣で、裏と表の二面性として共存している――そんなテーマを音像として表現したいと思いました。
ドラムが大きな7拍子の流れを描く一方で、ギターがより細かい7拍子を刻んでいたりするので、練習中も「これ、どこで終わるの?」とメンバー同士で笑い合うこともありました(笑)。
the cabsのようなバンドを好む方には、こうした女性ボーカルと変拍子の組み合わせの面白さを感じてもらえると思いますし、最終的には、雨傘とペトリコールらしい“ミドルテンポの変拍子”を持った楽曲に仕上がったと感じています。
03. Lily
実はこの曲、「誰も弾けない」という理由で一度ボツになり、そのまま長く寝かせていた難曲なんです。
Gt.三森:Vo.はる1984から「とにかく無茶な変拍子にしてほしい」とリクエストを受けて作った結果、完成した頃には自分でも弾けなくなってしまって(笑)。
Vo.はる1984:歌詞は、syrup16gの『生活』から影響を受けています。お風呂に入って意識が少し高揚している時に、リリイ・シュシュや、カート・コバーン、27クラブのことが頭の中に流れ込んできて、そのまま濡れた状態でパソコンに向かい、衝動的に書き上げました。今振り返っても、当時の自分が何を考えていたのか、はっきりと言葉にすることはできません。ただ、その説明のつかない「混濁した感覚」そのものが、楽曲の核として定着したように思います。
Gt.亀山:ギターの音色も、当初はもっと輪郭のはっきりしたものだったのですが、コーラスを深く重ね、ライブでの試行錯誤を経るうちに、徐々に歪んだ質感へと変化していきました。構成としても、あえて2番のAメロを排し、「もうこれ以上歌詞を書けない!AもBも必要ない!」という衝動のまま、大サビまで一気に突き抜けています。
雨傘とペトリコールの中でも、これまでにない“エグみ”というか、感情の複雑さや歪さを、そのまま表現できた一曲になったと思います。
04. 世界の終わりは金曜日の夜に
Gt.三森:「きのこ帝国みたいな曲を作りたい」という、Vo.はる1984からの丸投げのオーダーから始まった曲です。
Vo.はる1984:最初はコード2つとサビ4つのシンプルなデモだったんですけど、いざ着手してみたら、三森さんの持ってきたアレンジがSpangle call Lilli lineっぽくなり、そこにさらに相対性理論とかART-SCHOOLの要素を入れ込んで、今の「ごちゃ混ぜ」な形に落ち着きました。
Gt.三森:この曲自体は少し前からあった曲なんですけど、ライブでやると早すぎてベースが大変だったりして、今の4人になってようやく固まった感じがあります。
Vo.はる1984:歌詞は「終末に、君をどうにかしたいとかじゃなくて、最後の日、隣に立っているのが自分であればいいな」という祈りにも似た感情を書いています。
Gt.亀山:僕らの世代に刺さるように、「ノストラダムス」とか「テレビのニュース」とか、あの頃の空気感をあえて構造的に落としこんでますよね。サビでベースがグワーッとせり上がっていく感じとか、ドラムのyamaとの絡みも聴きどころ。
雨傘とペトリコールに今までない新しい色と化学反応を楽しんでもらえる一曲です。
05. ラストナイト
Vo.はる1984:アルバムの曲数が足りないってことで急遽制作した、ある種の問題作です。
亀山さんからデモが届いたのが夜中の2時で、その時は正直「あー、やる気ないな……」なんて思ってたんですけど(笑)。朝5時にお風呂から上がって聴き直してみたら、急にスイッチが入って一気に書き上げました。結局、そのデモの時に録った脱力したボーカルの録音が一番良くて、本番でも「どうやったらあの感じに戻れる? 座って歌う? マイクに近づく?」なんて試行錯誤しながら、当時の空気感を再現しています。
歌詞の内容としては、伊坂幸太郎さんの『終末のフール』や萩尾望都さんの『半神』という漫画に収録の「金曜の夜の集会」に影響を受けていて、「8月最後の金曜の夜を起点に1年をループする」そのために全てを忘れて1年やり直すか、滅亡する(ループしないで全てを終わらせるか)っていう、何が幸せか?という哲学的な世界観をイメージしました。『金曜』のアンサーソングみたいな立ち位置で、手を繋げたらいいな、ではなく決意。「最後に隣で手を繋いでいてあげる」愛について、幸せを問い直すような曲です。
Gt.亀山:音源にはドラムをあえて入れていませんが、ライブでは「もっとランダム性が欲しい」といった無茶なリクエストにも応えてくれていて、変拍子から元の流れへ戻る瞬間の解放感が、何より気持ちいいアレンジになっています。
また、逆回しのセリフやグリッチノイズといった細かな音の仕掛けも織り込まれていて、ライブとは異なる、「音源だからこそ成立する質感」を丁寧に閉じ込めた一曲になりました。
06. night scene(MVも公開)
Vo.はる1984:雨傘とペトリコールの「顔」とも言える一曲ですが、実はこれ、「不倫・深夜ドライブ」をテーマに曲を書けっていう無茶振りから始まったんです。東京事変の『入水願い』みたいな世界観を目指せと言われて1ヶ月くらい悩み抜いて。結局、電車から川を眺めていた時に「あ、このまま飛び込みたいな」って思ったのがきっかけで今の歌詞になりました。
Gt.三森:ベースラインはフュージョンチックでかなりテクニカル。実はライブで一番やってる曲なのに、一番ミスる可能性が高いのもこの曲だったりします。
Gt.亀山:(今回MV撮影・編集も担当)
映像の中では、男性(theStill やさしさ)を突き飛ばす時に一人だけちょっと笑ってるはる1984がいたり、体幹が弱すぎて盛大に転げそうになってるやさしさ氏の姿が映ってたり。
Vo.はる1984:「対岸の星」=「正しい世界」への憧れと、結局そこには行けないまま一人で帰る女性の情念。歌詞の意味が意外と伝わらないって言われることもあるけれど、不倫の果てに突き飛ばして終わる、あの「余白」をMVを見る、聞く方自身なりに面白がって聴いてもらえたら嬉しいです。
07. 氷
Gt.亀山:この曲はとにかく繊細すぎて、制作中も「遊びすぎてもいけないし、かといって普通すぎると退屈になっちゃう」という絶妙なラインをずっと探っていました。タイトルの通り、溶けてしまいそうな氷の質感をどう出すかに命を懸けていて。
ギタリスト二人が偶然同じだった「meris」のエフェクターで同じプリセットを使って基本の音は作成、さらに別のエフェクターでオクターブ上の音やグリッチを足して、このドリーミーな浮遊感を作っています。
Dr.yama:リズム隊もかなりストイックで、私は「とにかく汚い音を出さない」というのを裏テーマにしていました。ドラムも音数を入れすぎると曲の繊細さが壊れちゃうため、リムショットのタッチ一つ、ハイハットの開き具合一つとっても、「みんなが欲しい音を出してやる」っていう気持ちでかなり選別して叩いています。
Vo.はる1984:ライブでは三森さんがいないと「氷、今日はやめとく?」ってなっちゃうくらい、4人の繊細なバランスの上で成り立っている一曲です。
08. 海と亡霊
Gt.三森:誰も正確な尺を把握していない曲です(笑)。今でもライブの入りなんかはあえて決めすぎない「ゆるさ」を大事にしています。
昔は海のSE(環境音)を流して雰囲気を作ってましたけど、亀山さんが入ってからはギター2本の厚みだけで十分その景色が描けるようになりました。だから今は、あえて海の音源は流していません。
Vo.はる1984:歌詞に関しては、三森さんから「こういうテーマで」っていう要望とメロをもらったんですけど、結局私が「メロはなんか違う気がするわ」って無視して勝手に書いちゃいました(笑)。でも仮で入れていたサビの「愛していたけれど」っていうフレーズを三森さんがすごく気に入ってくれて、そのまま残すことになった思い出深い曲です。普段どストレートに愛してるって歌詞を入れないので。
全員:アルバムの最後はこれじゃないと終われない。僕らが最後に還っていく場所であり、今の4人で鳴らすことでようやく完成した、雨傘とペトリコールの原点です。
やまちゃん文字起こししたら全然喋ってないじゃん!ということで総括コメントを頼みました。
Dr.yama:対談時、喋るより聞き入ってしまって、改めてコメントを求められると何を書こうか迷いますね。最初に、私は雨傘とペトリコールの世界観を一緒に作り上げていることを嬉しく思っています。またアルバムに限らずですが、音像化するためにメンバーが試行錯誤を重ねたために出来上がった楽曲たちです。皆さんに届きますように。